韓国アイドルグループ・BTS(防弾少年団)のSUGA(本名:ミン・ユンギ)さんが「ミンユンギ治療センター」を設立しました。
ソウルの延世大学校医療院「セブランス病院」に併設された、自閉スペクトラム症(ASD)支援のための施設で、大きな反響を呼んでいます。
アイドルとして名実ともに優れた功績を持つSUGAさんが治療センターを設立したニュースは、韓国国内での社会的影響が期待されています。
今日は、SUGAさんが設立した「ミンユンギ治療センター」についての詳細情報、そして日本の療育との違いなどを調べてみました。

「ミンユンギ治療センター」って何?

「ミンユンギ治療センター」は、BTSのメンバー・SUGAさんが設立したASD専門の支援施設です。
世界的アーティストであるSUGAさんは、ミンユンギ治療センターを設立する直前まで徴兵制で、社会服務要員として勤務されていました。
長年の留守期間を経て、水面下で準備してきたと思われる治療センターの設立。
韓国国内だけでなく、日本や世界中でも驚きと感嘆の声が聞こえてきましたね!
どこにある?
ミンユンギ治療センターは、韓国・ソウルの延世大学校セブランス病院内に新設される施設です。

小規模施設であることの多い日本の療育とは異なりますが、長期的・継続的に支援を受けられる体制が整っています。
ASD支援や診察のために、予約をして通院するようなかたちになるでしょう。
どんな職員がいる?
ミンユンギ治療センターで働く職員はどのような人たちなのか、見てみましょう。
ミンユンギ治療センターの職員については、公式情報でくわしく発表されていません。
しかし、運営母体である「延世大学セブランス病院の特別支援センター」もしくは「小児精神科部門」が統括する施設であることから、以下のような専門体制が想定されます。
職種 | 主な役割 |
---|---|
小児精神科医 | ASDの診断・治療計画 |
臨床心理士 | 発達評価・心理支援 |
言語療法士(ST) | コミュニケーション能力の支援 |
作業療法士(OT) | 感覚・行動・生活スキルの支援 |
音楽療法士 ソーシャルワーカー等 | MINDプログラムの実施・保護者対応 |
一般的な療育施設に配置されている職員と類似した資格に加え、音楽関係の発達専門家も在籍するのですね。
セブランス病院側の報道では「言語・心理・行動治療などの精神的支援を提供し、臨床と研究を連携する」と明記されています。
SUGAさんの設立する療育施設らしく「MINDプログラム」という音楽を用いた社会性トレーニングを実施します。
そのため、音楽療法士や心理士など多職種の連携が不可欠なんですね。
なぜ「治療センター」と言う?
わたしがミンユンギ治療センターについて知ったとき、まず思ったのが
なぜ「治療センター」なんだろう?ASDは治療して治るものではないのに…
ということでした。
発達障害児を育て、自身も発達障害児に関する資格を取得しているわたしからすると、ASDの治療センターというのは違和感のある名前だったんです。
そのため、まずなぜその名称になったのかを調べてみました。
結論からいうと、ミンユンギ治療センターが意味する「治療」という言葉のニュアンスが日本語と少々異なるというものでした。
ミンユンギ治療センターの英語名は「Min Yoon‑gi Treatment Center」。
この「Treatment」という部分が「治療」という意味合いになります。
発達障害や知的障害における支援で用いる言葉は、日本でいうと「療育」ですが、韓国では「治療」という言葉が使われるそうです。
しかし、日本語の「治療」のように「治す、完治させる」という意味ではなく、以下のように広義の支援を含んだ名称なのだそうです。
日本でいう「療育」にあたる多様な支援を含む医療的施設で、治療してASDを治すことを目的としているわけではないことが分かりました。

日本の「療育」とおおむね同義語ということなんだね!

韓国は発達障害支援において遅れている国なので、もしかして韓国ではASDを治療して根本的になくすという考えを推進しているのかな…?と思ってしまいましたが、勘違いでした!
そもそも、日本でいう「療育」というのは独自の造語なんです。
そのため他言語に完全に一致する単語が存在せず、韓国語や英語ではより広義の言葉「治療」が用いられるというわけなんですね。
「療育」は日本語独自の言葉で「医療(治療)+教育(育てる)」を組み合わせて造られました。
和製英語ならぬ、和製漢語なのだそうですよ!
ミンユンギ治療センターでは何をする?

ミンユンギ治療センターでは、実際にどのような支援活動が行われているのでしょうか。
まだまだ発達障害や知的障害への理解度が低く、学歴や職歴がすべてといっても過言ではない韓国。
世界を股にかけるアーティストが、ASD専門の支援施設を設立したことで、そのサービス内容が大きく注目されています。
MINDプログラム
ミンユンギ治療センターで提供している療育の1つが「MINDプログラム」です。
MINDプログラムは、音楽ベースの社会技能トレーニングです。
SUGAさんは音楽に携わるアーティストということで、ASDの子どもたちに音楽で自分を表現する楽しさを伝えたいという思いがあるそうです。

SUGAさんは実際にセッションに参加し、子どもたちに楽器の使い方をレクチャーしていました!

MINDとは、以下を意味しています。
SUGAさんとチョン・グンア教授(小児精神科)が協働して開発し、音楽制作や歌唱、楽器演奏、歌詞づくり、リズムワークを通じて、感情表現や他者との関わり方を育てることを目指しているそうです。
主に以下のようなプログラム内容が想定されています。
すでに発表されている研究結果によると、言語表現や非言語的な情緒表現が向上したケースが報告されているそうです。
従来の言語療法で反応しづらかった子どもでも、関与が進んだ例があるとされています。
そして、社会性の育成や協調行動・待つ力の向上などが、セッションを通して観察されたことも発表されています。
参考サイト:
- https://en.sportschosun.com/celebrity/2025/06/official-bts-suga-to-join-hands-with-severance-79263
- https://gulfnews.com/entertainment/btss-suga-launches-autism-therapy-centre-with-38-million-donation-and-a-music-driven-mission-for-children-1.500173106
- https://www.allkpop.com/article/2025/06/btss-suga-donates-5-billion-to-establish-the-autism-treatment-center-in-his-name?
外来診察
ミンユンギ治療センターでは、予約制で受診ができる外来診察を提供しています。
外来診察では、言語療法・心理療法・行動療法などを行ったり、必要に応じて通院し定期的な支援を受けることができます。
診療なので、病院に通院するような感覚で、定期的に小児科の先生に診ていただけるかたちなのでしょう。

わが家も2~3ヶ月おきに発達外来を受診して経過観察をしているので、同じような感じかな
日本の「療育」とは違う?

ミンユンギ治療センターは、わたしたちが知る「療育」とは少し違う特徴を持っているようです。
発達障害児・知的障害児を育てている人は、実際に療育に通っていたり、見学したりしたことがあるかもしれません。
ミンユンギ治療センターと日本の療育がどのように違うのか、見てみましょう。
日本の「療育」との違い
ミンユンギ治療センターは、延世大学校セブランス病院内に併設される施設です。
そのため、日本の療育のような「通所型施設」ではありません。
総合病院に属する医療的支援センターで、毎日通ってさまざまなプログラムを受けるという療育サービスは行っていないようです。
発達障害児、知的障害児を育てている方はイメージしやすいと思いますが、日本の療育は比較的小規模の施設ですよね。

まめがこれまでお世話になった療育も、最大4~5人の集団療育をしたり、1対1の個別療育をしたり、小学校入学に向けた準備コースがあったりしました。
SUGAさんが設立したミンユンギ治療センターは、そのように子どもが通所してプログラムを受ける施設ではなく、以下の特徴を持ちます。
ミンユンギ治療センターと日本の療育の違いを、表でまとめてみましょう。
項目 | ミンユンギ治療センター | 一般的な日本の療育施設 |
---|---|---|
形態 | 病院内の専門外来 セッション | 通所型 (名前を登録→日中滞在してプログラム実施) |
支援内容 | 医療的治療と研究との連携 音楽を使った社会性支援 | SST・感覚統合・ 日常生活訓練・学習支援 |
利用形態 | 外来予約 定期プログラム | 通所型で日常的な支援を受ける |

ミンユンギ治療センターは病院的な位置づけで、日本の療育は習い事のように通うイメージだね
日本の「療育センター」と似ている
ミンユンギ治療センターは、日本でいう「療育センター」という施設に近いとされています。

待って!そもそも「療育」と「療育センター」って違うものだったの!?
わたしたちはよく「療育」「療育センター」という言葉を使いますが、厳密にいうとこれら2つが別物だという定義はありません。
しかし、一般的に「療育」というと小規模施設で、テナントや民間事業所のようなイメージ。
そして「療育センター」というと自治体・病院・専門職の集まる施設であるイメージがあります。
イメージだけでなく、多くの施設でその傾向があるために、わたしたちは自然と小さな施設を「療育」と呼び、総合的な機能を兼ね備えた施設を「療育センター」と呼ぶようになっているようです。

言われてみれば、療育は「○○療育教室」とか「△△発達支援ルーム」みたいな名前で、療育センターは「◯◯市療育センター」みたいな名前が多い気がする
SUGAさんが設立した「ミンユンギ治療センター」は、療育のように小さな施設よりも「療育センター」に近い多機能施設であることが分かります。

病院の中にある施設だから、小児科や小児精神科などもあるしね!
類似した施設が日本にもある
ミンユンギ治療センターは病院に併設された施設です。
日本でそこまで浸透しているわけではありませんが、類似した施設があります。
これらは、発達外来での診断と療育や支援を提供するセンター機能を備えており、医療と福祉が連携したハイブリッド型施設です。
発達外来にだけ通うより、医療+発達支援が受けられるので、総合的な支援を求める人に推奨されています。

発達外来にだけ通って、通っている学校や園と連携しながら生活しているご家庭も多いですよ
SUGAはなぜASD治療センターを設立した?

韓国は依然として学歴社会が根強く、発達障害への偏見や支援の遅れも指摘されています。
しかし、世界的に影響力をもつアイドルが率先して支援を行うことは、障害に対する理解を広げる契機になるのではないかといわれているそうです。
SUGAさんが実に5億ウォン(約3.6百万ドル)もの大金を寄付し、直接プログラム開発や現場活動に関わったことは、社会の意識変革の起爆剤となるでしょう。
韓国は美容やグルメ、エンタメ界でアジアトップの知名度や人気を誇る国。
しかしながら、発達支援や多様性においては社会の仕組みがまだ整備されていない国でもあります。
国ぐるみで受験シーズンを乗り越えたり、受験は本人だけでなく家族のものだという意識があったりするのは有名な話ですよね。

受験に遅刻しそうな人を見知らぬ大人が送り届けることもあるくらい、国全体が子どもの受験を応援しているよね!
その一方で、発達障害や知的障害があったり、勉強が苦手だったりすると、高学歴の道が閉ざされてしまいます。
そうなると、子どもは「親に諦められてしまった」「親の期待に応えられなかった」と感じてしまうでしょう。
そんな学歴社会の韓国で、いわゆる社会的弱者となってしまいがちな発達障害児に目を向けた「ミンユンギ治療センター」。
なぜ設立に至ったのか、SUGAさんのこれまでのインタビューやコメントからまとめてみましょう。

実はわたし…アミなんです!(アミ:BTSのファンネーム)
SUGAさんの過去のインタビューも見てきたので、彼の熱い思いや行動に至った経緯をオタク目線で語ります!
きっかけはチョン・グンア教授との出会い
SUGAさんがASDを専門とした支援施設を立ち上げたいと思ったきっかけは、精神科医のチョン・グンア教授との出会いだったそうです。
チョン・グンア教授は延世大学セブランス病院の小児精神科に勤める医師で、SUGAさんはチョン教授から
ASDには中長期的な個別支援が必要である
ということを教わりました。
SUGAさんは、短期治療では十分な支援ができないASDに「継続的かつ専門的な治療の場」が必要だと感じたそうです。
SUGAさんが音楽を通して伝えたかったこと
SUGAさんは「音楽を通じて感情を表現し、社会とつながる力」を育んであげたいという思いから、ASDを持つ子どもたちの支援に興味を持ったそうです。
SUGAさんは過去に、うつ病、強迫障害(OCD)、社交不安障害といったさまざまな精神疾患を患ってきたことを明かしています。

多くの人がうつ病という言葉に過剰反応しがちだけど、それは風邪のように、誰でもなり得るもの。隠す必要はない。
定期的にカウンセリングやセラピーを受けていたSUGAさんは、専門家の助けを求めることの重要性を誰よりも感じてきたのでしょう。
SUGAさんはソロ名義「Agust D」としてもアーティスト活動を行っており、その中でもメンタルヘルスに関する楽曲をリリースしてきました。
たとえば『The Last』という曲の歌詞には、以下のような表現があります。
「I’m scared of people, the world is scary. Even friends are leaving me, I’m becoming alone」
(人が怖い。世界が怖い。友人たちも離れていき、僕は独りになっていく)
最初は自身のメンタルヘルスについて語ることをためらっていたそうですが「自分が話すことで、誰かの助けになるなら」という思いから、曲に載せて発信するようになりました。
ご自身の経験から、優しさをファンや視聴者のみならず「ASDを患う子ども」に向け、支援することを決めたのですね。
なぜ自らASDの発達支援に関わったのか
SUGAさんは、自らが発達障害を抱えているわけでも、身内に発達障害の人がいると語ったわけでもありません。
医師免許や専門的な資格もなく、音楽に専念してきたと思われたSUGAさんが「自らかかわろう」と思ったのは、なぜだったのでしょうか。
実は、SUGAさんは以前から「福祉の仕事をしたい」と発言されていました。
心理学を学んでおり、カウンセラーの資格を取ることにも意欲的だったんです。

将来的に福祉の仕事に就きたいからと、タトゥーを入れずに活動していたそうです
※BTSとしての友情タトゥーは入っています
こちらの動画で、福祉の仕事を視野に入れていることや、タトゥーに興味がなくなった理由について話されています。
10年かけて実現した、SUGAさんの夢「ミンユンギ治療センター」の設立。
社会服務要員として勤務されていた頃から、多忙の合間を縫って準備してきたのですね。
普段は口数の少ないSUGAさんですが、淡々と、着々と夢に向かって歩んでいたと思うと、尊敬の念を持たずにはいられません。
自らもセッションに参加し子どもたちとふれあう
SUGAさんは、ただ単に児童福祉施設に寄付をしただけでなく、自らの名前が入った治療センターを設立しました。
そして、自らもセッションに参加し、子どもたちとともに楽器の演奏を楽しんでいましたね。


クールなパフォーマンスを見せるステージ上のSUGAさんとは違う、優しい笑顔が印象的ですね
子どもたちからも「最高の先生」と呼ばれ、手紙を受け取りしみじみ読む姿は、BTS・SUGAではなく「ミンユンギ先生」の顔をしていました。

韓国ではなかなか関心を向ける人がいないとされる、発達障害の世界。
SUGAさんが設立した治療センターへの寄付や取り組みが広まり、すべての子どもが生きやすい世の中になったら素敵ですね。
まとめ
BTSのメンバー・SUGAさんが設立したASD治療センターについて調査しました。
音楽活動をしながら、そして世界を股にかけながら、水面下でずっと夢だったASDの支援施設設立を準備してきたSUGAさん。
兵役から戻りすぐに報じられたニュースに、ファンだけでなく韓国じゅうが驚きに包まれました。
日本でも年々、知名度が高まってきているASDという発達障害。
韓国での支援体制が整うことで、日本にも良い影響があったり、意識が高まったりしたら嬉しいですね。
コメント